テレワークのメリットとは?本当に得をするのは誰か
働き方改革
ITを利用して時間や場所にとらわれない働き方を意味する「テレワーク」。社会的ニーズは高く、政府も推進していますが、意外と知られていないのが現状のようです。誰に、どんな効果が期待できるのか。あらためてテレワークのメリットについて考え、実現への道を探ります。
テレワークの現状
総務省の「情報通信白書 平成29年版」によると、テレワークの導入は「未だ揺籃期にある」と見ています。同省の調査で、テレワークを導入済みの企業は、従業員数301人以上の企業で20.4%、100人以下では2〜3%程度であることがわかりました。また、テレワークを「導入している」「導入を検討している」「検討はしていないが関心がある」企業の比率は、従業員数301人以上の企業で約44.4%、50人以下では10%前後でした。
比較的規模の大きい企業では導入を前向きに進めているものの、小さい規模ではまだ消極的である状況がわかります。
さらに国土交通省の「平成28年度 テレワーク人口実態調査」では、業種や職業、役職から見た普及度合いを調査しています。業種別にみると、雇用型では「情報通信業」が32.3%、自営型でも「情報通信業」が49.2%、「金融・保険業」は34.1%と他業種に比べて高く、「運輸業」「農林水産・鉱業」が低い割合となりました。職業別では、雇用型では「研究開発・技術(ソフトウェア等)」が35.8%。自営型では「ライティング(ブログ・記事作成、WEBコンテンツ作成など)」が51.8%、「プログラマー」が51.3%と高い割合を示しています。雇用型では「事務・企画」のテレワーカーの割合が11.7%と低い割合でした。役職別では、雇用型において「部長クラス」で30.1%、「派遣・契約・嘱託、パート・アルバイト」は7%と低く、職位が高いほどテレワーカーの割合が高くなる傾向でした。
IT系にたずさわる人の普及率が高いのは想像しやすいところですが、幅広い業種・職業・役職の人への導入にはまだ“壁”がありそうです。
なお、同調査で勤務先にテレワーク制度などがあると回答した割合は、雇用者全体のうち14.2%でした。そのうちテレワーカーの割合は54.6%。雇用型テレワーカーにおいて、制度などがあると回答した人のうち約7割が「全体的にプラス効果があった」と回答しています。
また、テレワークの認知状況は、「知っていた」18.5%、「聞いたことはあったが内容はよく知らない」34.9%、「知らなかった」46.7%となりました。約半数の人が何かしら知っているという状況です。
テレワークのメリット
このように、企業におけるテレワークの導入状況は、進んでいるところとそうでないところが混在していると言えます。あらためて、企業・労働者・社会それぞれにとってのメリットを考えてみましょう。
企業にとってのメリット
働き方改革が叫ばれる中、テレワークという新しい働き方を導入する企業へのメリットは多いと言えます。
少子高齢化による労働人口の低下で、企業には人材不足という問題がつきつけられています。その解決の糸口となるのがテレワークで、これまで子育てや介護などで離職を余儀なくされていた優秀な人材を、柔軟な働き方により引き止めることができます。
また、社員の業務効率を改善できるため、生産性の向上が期待できます。オフィスと離れたところで業務を行うため、評価の対象となる業務は「時間」ではなく「内容」となります。それには目的を明確にする必要性が出てくるため、これまでオフィスでダラダラと過ごしていた時間がなくなり、生産性は向上するでしょう。
加えて、IT導入によるチーム内の情報共有環境が整えられます。そのことで紙媒体による情報提供、情報不足による業務停滞などの無駄が省け、コスト削減にもつながります。
労働者にとってのメリット
働く人にとって、テレワークはこれまで諦めざるを得なかった多くのことを実現してくれます。
育児・介護と仕事の両立が可能となるため、離職することなくワークライフバランスを充実させることができるでしょう。時間や場所に縛られずに動けるため、効率よく業務を行うことができます。時間余裕が持てるようになると自分への投資に時間を使うことができるため、スキルを磨いたり、新たな能力を発見したりする機会も得られます。通勤による体力的・精神的負担が解消されるため、自分の仕事にエネルギーを注ぐことができます。
また、テレワークにより趣味やボランティア、家族との時間など、「会社員以外の自分」を育てることが可能になり、そうした視野の広がりが仕事にもプラスになると考えられています。
社会にとってのメリット
テレワークがもたらす社会への影響は大きいと言えるでしょう。
出社という条件に縛られなくなるため、高齢者・障害者への雇用機会を増やすことができます。これは、先に述べた人材不足の解消にもつながります。地方で就業することと都心で就業することの差がなくなるので、地方での就業を希望する人も増えると予想され、地方の活性化につながります。こうした変化は、地方の過疎化に歯止めをかけるだけでなく、地方の魅力を発信する機会も増えることになるでしょう。これまで見過ごされていた日本の財産である自然や文化などの見直しにつながります。
さらに、通勤の必要がなくなることにより、交通渋滞が軽減され、環境の向上につながります。災害時など交通機関が停止した場合でも業務を続けることが可能になります。
テレワーク導入時の課題と解決策
テレワーク導入時において、課題となるのは以下の3点です。解決策(事例)とともにご紹介いたします。
1.情報セキュリティをどうするか
ITの利用により、個人情報や会社の機密情報が漏れるリスクが心配されます。社内でのみ閲覧可能にしておきたい情報もあります。この場合は、テレワーク導入の目的を明確化したうえで、対象を決めます。どこまでの業務をテレワークで可能にできるか、慎重に検討する必要があります。
アメリカンファミリー生命保険会社では、以下のようにセキュリティ対策を実施しました。
- 会社からシンクライアント端末(ローカル環境にデータを保存できない端末)を貸出
- 私用パソコンの使用や公衆無線LANへの接続を禁止
(出典:テレワーク導入支援 事例集)
2.労働時間の管理をどうするか
オフィスに出社していないため、何時から何時まで働いているかが明確ではないと言えます。自己申告の場合、社員が「サボってしまうのでは」という心配よりも、区切りが無いため長時間労働になってしまいがちなことが懸念されています。対応策として、離席状況を管理できるツールを活用するほか、みなし労働時間制などルールを決めておくという企業が多いようです。本人から勤務状況を都度報告してもらう場合、細かく報告することになると手間がかかってしまい、自由な働き方の導入の視点からは逆効果となる可能性があるので気をつけましょう。
株式会社キャタラーでは、以下のように労働時間管理の対策を実施しました。
- テレワークの手引きを作成し、社内説明会で周知
- 勤怠管理は既存の方法で行い、始業時と終業時にメールを上司とチームメンバーに送ることを義務化
- 在籍管理はコミュニケーションツールのステータス機能によって、在席状態を見える化
(出典:テレワーク導入支援 事例集)
3.評価方法をどうするか
テレワークでは、オフィスで働く様子を見るのと同じようには確認ができないため、評価ポイントを明確にしておくことが必要となります。生産性の向上を目的としていることから、どこまでの成果を出せたかを基本の考えとすべきでしょう。
カルビー株式会社では、在宅勤務制度を導入する前に、プロセス評価から成果主義に人事制度を変更しました。この制度変更により、在宅勤務であるかないかに関わらず、数値目標に対する達成率で評価されるようになっています。
(出典:働き方・休み方改善ポータルサイト)
テレワークのメリットをおおいに活用しよう
テレワークは企業・労働者・社会の3者へのメリットがあり、導入の意義は大きいものです。その影響力は、働き方の可能性を広げるだけでなく、他者の多様性を受け入れる「優しい社会」へと変化させる可能性を持っていると言えるでしょう。導入を阻む課題が多いのも事実ですが、決して解決できないものではないため、自社の業務を見直し、よりよい未来のために実現を目指したいものです。
参考: