BYOD導入で効率的な仕事環境を実現

BYOD導入で効率的な仕事環境を実現

業務効率化

働き方改革が意識されるようになり、テレワークや在宅勤務を検討・導入する企業が増えているのではないでしょうか。そうした自由度の高い働き方が広がる背景には、IT環境が整い、多くの人がモバイルデバイスを使えるようになったこと、セキュリティ対策が充実してきたことなどがあります。しかし、個人のデバイスを会社でも使用する「BYOD」を完全に導入して成果を上げている企業となると、まだ多くはないでしょう。今回はBYODの概要や、導入にあたってのポイントを確認します。

個人所有のデバイスを仕事でも使うBYOD

BYODとは何なのか、耳慣れない方もいらっしゃるのではないでしょうか。BYODとはBring Your Own Deviceの略で、個人が所有しているデバイスを会社へ持ち込み、仕事用としても利用することを言います。またBYODが個人のデバイスを仕事用としても使うことに対して、私用で使っているソフトウェアを仕事用に使うことをBYOSと言います。

BYODやBYOSの導入を検討する企業がいる一方、逆の視点でBYCD(Bring Your Company’s Device)を採用する会社もあります。BYCDというのは、会社が所有するデバイスを個人も利用できる環境を整えるというものです。

所有している人が個人なのか、会社なのかという違いがありますが、どちらもプライベートとビジネスで、同じデバイスやソフトウェアを利用できる環境を整えるという点では共通しています。

BYODが注目される背景

公私混同は避ける、プライベートとビジネスを分けるという考え方が常識だとされてきた社会で、こうした動きが生まれたのには、どういった要因があったのでしょうか。まず、社会的動きから考えてみましょう。

現在、国を挙げて働き方改革の推進をしています。家族の事情で離職を余儀なくされた人が、自宅などで今までと同じように仕事が続けられるようにテレワークや在宅就労などを進めるほか、会社内でもフリーアドレスを採用したり、フレックスタイムを定着させたり、自由度の高い働き方を望む会社や社員が増加していることが伺えます。

言い換えれば、どこにいても、いつでも、うまく時間を活用して仕事ができるような働き方を求める人が増え、それが定着しつつある社会になってきたということでしょう。

さらにBYODがもたらす効果が、会社にとっても社員(個人)にとっても好都合であることも動きが加速している理由でしょう。使い慣れたバイスなどを使うことで、ストレスなく効率的な仕事環境を実現させるということは、会社・個人の双方に共通する目的です。

また機能や環境的な要因もあります。ノートパソコンが小型軽量化され持ち運びがしやすくなったこと、クラウド型のサービスが普及したことなどにより、会社の決まった部屋でなくても、どこででも仕事ができるようになったことがBYODを後押ししていると言えるでしょう。

なかでもスマートフォンの普及は、個人用のデバイスを仕事にも使うことへの抵抗感を薄くさせた要因といえます。スマートフォンの性能は格段に高まり、画面も大きくなり、パソコンと変わらない性能を提供しています。電話はもちろん、メール、チャット、情報検索、写真撮影など多様な機能を使いこなせば、場所、時間を問わず効率的に仕事をすることができます。

こうした環境が整ってきたことが、BYOD導入を促し、注目される要因になっています。

しかし課題がないわけではありません。メリットやデメリットを確認しながら、BYOD導入の可能性について探ってみましょう。

BYOD導入のメリット

環境が整い、導入を検討する会社や、希望する社員が増えていると言われるBYODですが、そのメリットとは具体的にどのようなものでしょうか。また、企業と社員のメリットは一致しているのでしょうか。ここでは、導入のメリットを企業側と社員側の視点で考えてみましょう。

企業側のメリット

BYODは、企業にとって以下のようなメリットがあります。

業務の効率化、コスト削減

企業にとってのBYODの最大のメリットは、やはり業務の効率化、設備コスト削減が図れることです。

従来のように会社用のパソコンや携帯電話を支給し、仕事用にのみ使用を許可していた場合は、必要な数のデバイスを会社が用意する必要があります。BYODを導入すると、デバイスの購入費用だけでなく、保守管理費などについても削減することができます。

また、社員個人が使用しているものとパソコンの機種が異なる、ソフトウェアも個人が使っているものと異なるとなると、使いこなして仕事をスムーズに行うために、使い方をレクチャーする時間や勉強会などを設ける必要があります。これらもすべて会社側にコストがかかることになります。

一方、BYODを導入して、社員それぞれが個人で使っているパソコンやソフトウェアを仕事で使用することを認めると、必要なデバイスを会社が購入する必要はなくなり、設備投資としてのコストは削減できます。さらに、個人が使用しているものなので、わざわざ使い方を勉強するための時間や費用を見込むこともなくなります。

セキュリティ対策の徹底

もうひとつ見逃せないのが、セキュリティ対策などの仕事環境を整える機会になることです。言い換えると、社員ひとりひとりにセキュリティ意識を持たせるきっかけになるということです。

BYODを前提に、個人のデバイスやソフトウェアを利用する際のルールを策定することで、責任の所在を明確にすることも可能となります。会社が所有しているパソコンの管理や運営を一括して行い、秘密やデータの漏洩を防ぐためのセキュリティリスクへの対応も会社が行っていることに比べると、社員にもセキュリティへの意識づけがしやすくなるため、徹底した環境を整えることも可能になります。

社員側のメリット

一方、社員にとっては以下のようなメリットがあります。

荷物の軽量化

社員のメリットは、仕事用と個人用のデバイスやソフトウェアを使い分ける必要がなくなる、つまり、物理的な負担がなくなることが挙げられます。特に携帯電話(スマートフォン)は個人用のものを必ず持ち歩くものですから、仕事用と個人用を使い分けるとなると、鞄のなかにはいつも2台の携帯電話が入っていることになります。できるだけ荷物を軽くしたいという社員にとっては大きなメリットです。

業務の効率化、自由な働き方の促進

また、自分のデバイスや使い慣れたソフトウェアを使うことで、作業効率が良くなることが挙げられます。使い慣れている機種やソフトウェアなら、すぐに使い始められますし、操作ミスも少なくなります。さらに、デバイスやデータが持ち帰り禁止であった場合と比べると、営業先から得た情報を移動中に、すぐに報告できるなどの便利さがあるほか、帰宅後の時間や休日なども自分のスケジュールに合わせて場所にとらわれず仕事ができることも、働き方の自由度が高まる要因だと考えられます。

BCP(事業継続計画)の備えになる

もうひとつ、特に近年の気象異常や災害が多発することを考えると、対策を講じておくべきBCP(事業継続計画)にとっても、効果的です。BCPというのは、災害などの緊急時に、会社などが被災し、社内の機器などが使用できなくなった場合にも、いち早く事業が再開できる、あるいは継続できる環境を整えておこうとするものです。

現在、多くの企業では、クラウドストレージなどを活用して、情報やデータを保存しておくことで緊急時に対応していますが、デバイスが使えなくなるとデータが残っていても事業継承ができない可能性が高くなります。つまり、会社が用意したデバイスやソフトウェアのみを利用して仕事をしていた場合には、職場が使えない状況に陥れば事業継続は難しくなるということです。

一方、BYODを導入しておけば、個人所有のデバイスが利用可能なので、会社が災害に遭った場合でも事業は継続できる可能性があるのです。また、プロジェクトを担当している社員の自宅が災害を免れた、あるいは作業する場所を確保できれば、そこですぐに事業を再開できるのです。

BYOD導入のデメリット

BYODを導入する際に、誰もが懸念するのがセキュリティ面でのリスクが高くなることでしょう。では、でキュリティのリスクとは具体的にどういったものでしょうか。また、それ以外のデメリットはないのでしょうか。想定できるデメリットを、採用する企業側と社員の立場で考えてみましょう。

企業にとってのデメリットはセキュリティのリスク

BYODでは社員個人のデバイスをいつも携行していることになるため、盗難や紛失の機会もそれだけ大きくなります。自分のハードウエアであることや、いつも使っているソフトウェアである、という安心感から管理はあまくなる可能性があります。会社から支給されているパソコンであれば、プライベートな旅行先に持って行ったり、友人宅へ持って行ったりすることもありませんが、自分のものであれば気軽に持ち歩き、プライベートで使用するのは当然のこと。自宅外での使用が増えれば増えるほど、紛失や盗難の機会も増えるわけです。

またプライベートでアクセスしたサイトや入手した情報にウィルスが紛れ込んでいて、仕事の情報が漏洩する可能性もあります。第三者がBYODで使用されているデバイス機器に簡単にログインできるとしたら、データはすぐに抜き取られてしまうでしょう。さらに所有者のふりをして会社の極秘情報が保存してあるサーバへも不正にログインできてしまう、などの問題が発生する可能性が高くなります。

なかでもBYODにおいて、最も注意すべきセキュリティリスクといえるのが、第三者の利用です。第三者といっても情報を盗むことを目的に近づく他人とは限らないので、つい油断してしまうのです。たとえば家族がデバイスを使用する、という状況も第三者の利用にあたります。個人のデバイスであれば、十分に社員の家族が利用することも考えられ、そこから情報漏洩につながるリスクがあります。

社員にとっての3つのデメリット

BYODは、社員にとってもいくつかデメリットがあります。

仕事とプライベートの区別がしづらくなる

物理的な便利さや使い勝手から考えると、BYODの導入はさほどデメリットはないように感じます。しかし、自分のデバイスを仕事用としても使うということは、家でも、外出先でも、仕事をしようと思えば取りかかれる状態になるということです。言い換えれば、自由な働き方ができる反面、四六時中、仕事から離れられない環境に身を置く、ということでもあります。

従来の、仕事用のデバイスが会社から支給され、よほどの理由がないかぎり休日などの持ち出しが禁止されていた場合は、仕事用のデバイスを会社に置いておくのが当たり前でした。休日には「仕事が気になっても仕事ができない」という状況を作り出すことができました。つまり、プライベートとワークタイムの区別をつけやすかったわけです。

BYODが導入されると、社員一人ひとりが自分の働き方を考え、時間の使い方、効率の上げ方を管理する必要がでてきます。そしてその場合、きちんと休暇を取るという意識を持ち、自分自身の健康と次につながるブラッシュアップの時間を設ける必要がでてきます。言い換えれば、公私の使い分けにも個人の責任が問われるようになる点が、社員にとっては負担となるケースもあるでしょう。

通信費などのコストが増える

また、仕事でデバイスを使っている時間が長くなればなるほど、通信費などのコストが増えていきます。デバイスの保守、管理にもコストが発生するため、会社からの支援がないと、これも社員にとってのデメリットになります。

プライベートな情報が会社に伝わる

さらに、会社のデータなどの漏洩ばかりに目がいきがちですが、社員の個人データが会社側に漏れるという可能性も高くなります。

たとえば、会社側としては情報漏洩などを防ぐため、社員のデバイスを端末として管理するためのアプリケーションを活用する場合があります。そうした機能を持ったアプリケーションをインストールすると、個人のデバイスであっても、端末の利用状況管理として会社が把握することができるようになります。つまり社員が個人として利用しているサイトや情報のやりとり、保存しているプライベート情報や個人メールなどを会社が知ることができる、ということです。こうしたことを悪用すれば、プライベート情報を社員の査定などに使う可能性もでてきます。

BYOD導入時のポイント

BYODを導入するメリットは確かに大きいのですが、上記で見てきたように、デメリットもあります。企業にとっても社員にとっても情報の漏洩は必ず予防すべき点です。

では、こうした懸念を解消しながら、うまく活用するためのポイントを導入時の注意点として考えてみましょう。

セキュリティの強化と整備

会社が最も気をつけておくべきはセキュリティ面のリスクです。スマートフォンは録音、写真撮影、さまざまなアプリケーション利用など、簡単に使え、便利なデバイスですが、プライベートでの使用も頻繁で、紛失などのリスクもかなり高い状況にあるといえます。

こうした面を考えても、端末を紛失した際にリモートで情報が消去できるサービス(リモートワイプ)や遠隔地にある端末を利用不可能にするリモートロックなどの設定はBYOD導入時の条件として、全社で共通認識にしておく必要があるでしょう。

同様に、会社側が社員個人のメールアドレスや通話記録などを入手する可能性もあることを認識し、厳格なルールを設定し、個人情報の扱いについて改めて共有しておくことも重要です。

公私分計の設定

BYODやBYOSを導入すると、そのデバイスやソフトウェアを使用したときにかかる費用は誰が負担するのかという問題が発生します。業務で利用した通信料と私用で利用した通信料をどのように区別し、支払っていくかという「公私分計」の問題です。ただし、明確に区別することはかなり難しいのも現実の話ですので、一定額を会社が支給する、あるいは通信に関しては個人負担とするが、デバイス本体の購入時、ソフトウェアの購入時、セキュリティ対策の費用などを会社が負担するなど、双方が納得できる方法を設定しておく必要があります。

公私分計サービスを利用すると、社員個人のスマートフォンに専用のアプリをインストールすれば、仕事用に使用する電話などはその専用アプリを介して発信することができ、使用料については会社に請求が回るようにすることができます。

公私分計サービスは、各携帯電話会社(NTTドコモ、au、ソフトバンク)をはじめ、複数の企業がサービスを提供しています。

導入とルールの徹底

まず導入する前提として、全社を挙げて、あるいは部署を挙げて、全員がルールを理解し、活用に納得した状況を構築することが大切です。そのうえで、運用する際のルールを作ることから始める必要があります。

BYODやBYOSといっても、すべてのデバイスやソフトウェアを認めるのでは、運用に支障をきたします。対象とするデバイスの種類、OSなどを検討して、絞り込むことを検討しましょう。個人で使用している段階では、OSが古くても、ソフトウェアが下位バージョンのものであっても問題になりませんが、会社で仕事用に、複数の社員や取引先との業務に使うのであれば、ある程度の範囲内の機種、OS、バージョンに限定する必要があります。個人のデバイスにあらかじめセキュリティソフトをインストールする必要がありますが、対応していない機種やOSでは意味がないからです。

またBYODで行える業務の範囲をルールに盛り込み徹底しておくことも大切です。たとえば、機密性の高い情報は特定のデバイスのみを使用するということが考えられます。USBメモリなどは紛失の可能性のあるもので、個人のUSBは使用禁止にするなど、自社の業務内容に応じて、詳細なルールを設けておきましょう。

BYODポリシーへの同意

上記を踏まえて、BYODポリシーとして明確に示し、社員には同意書を提示してもらうようにしておくことが重要です。同意書には、次のような項目を盛り込みましょう。

  • 個人のデバイスを利用する際には事前に申告して承認を得ること
  • ウィルス対策のソフトなどをインストールすること
  • セキュリティ対策費用は会社負担とすること
  • 会社の管理、監査を認めること
  • プライベートであっても危険性の高いサイトなどへのアクセスは禁止であること
  • デバイスを改造するなどの行為は禁止であること
  • デバイスの紛失に関しては速やかに報告をし、リモートワイプ(遠隔地からのデータ削除)の実行を認めること
  • デバイス本体の費用などは個人の負担とすること

重要なのは全社、全員が共通の認識を持ち、利用、運用していくことです。自分くらいは大丈夫だろうという考え方が会社の情報を漏洩することにつながり、大きな被害をもたらすことになります。顧客情報の漏洩などは会社のイメージダウンや信用を失うことになります。そのことを導入前には徹底しておくことが大切です。

BYOD導入の事例紹介

インテルでは、BYOD導入を積極的に進めてきました。何を目的に導入を進め、どのような工夫をしてきたのか紹介しましょう。

2010年からBYODを積極的に取り入れてきたインテルでは、仕事に使われているスマートフォンやモバイル機器のおよそ6割が社員個人所有の機器となっています。その結果、社員1人が仕事に使える時間が1日で57分増えたとしています。

インテルがBYODの対象としているのは、スマートフォンをはじめ、タブレット機器、MacOS搭載機などのパソコンで、それらを仕事用に使用することを承認しています。

インテルでは導入にあたり、電子メールや設備予約など、業務で使うためのアプリケーションを、AndroidやiOSなどそれぞれのプラットフォーム用に7種類用意し、社員が個人で購入しなくても使えるような環境を設定しました。そのなかで最も使用されているアプリケーションがメッセージング機能を有したもので、プロジェクト間でのコミュニケーションや連絡がスムーズになったと考えています。

また、BYODを推進したことで、社員の働き方は変わってきているとも分析しています。たとえば、会議と会議の空き時間や移動中の時間を活用し、連絡を取るなどの業務を行えるようになった結果、1日57分の業務時間の拡大につながったと見ています。

こうした業務の充実を実現したインテルがBYODの導入を推進した目的は、「社員ひとりひとりの生産性の向上」です。社員が使いやすいデバイスを使うことで、ミスも減少し、機器を使うことへのストレスをなくすことで生産性向上につながると考えているのです。

一方、BYOD導入の目的にコストの削減がありますが、これについては、実際に導入を進めてみて、BYOD用の管理ソフトウェアやインフラ設備の投資などに費用がかかるので、コスト削減としての効果は見込めないとしています。

また、インテルではBYOD導入後、定期的に社員へのアンケートを実施し、BYOD導入に関する意見を集積するようにしています。その分析からは、社員にとって働きやすい環境が整ってきていると満足しているという結果が出ています。もともと、インテルがBYOD導入を検討しはじめたきっかけが、社員からの要求が無視できなくなったからという状況がありました。

このように、BYOD導入を業務拡大と効率化につなげ、結果を出すためには、会社も社員も導入の意図が明確に理解でき、環境を整える努力を会社側が積極的に取り組むことが大切です。逆に、会社がコスト削減などを目的に導入を進めても、社員がその必要性を実感していなければ、定着しない可能性もあります。

(出典)[事例1]「1人当たり1日57分」の効率化を達成したインテル|日経XTECH

BYODの導入には目的意識が共有されていることが大切

使いやすい機器やソフトウェアを仕事でもプライベートでも使うことは、単純に合理的に思えるBYODですが、セキュリティ対策など、さまざまなルール作りが運用には欠かせません。そうした課題をクリアするためには、社員が納得していなければうまくいかない可能性が高くなります。

BYOD導入を検討するときには、まず目的を明確にし、何が課題になるのかを挙げ、社員全員に意識共有できるかどうかを見極めることが重要です。

参考: