いまや当たり前?働き方改革で再び見直される「ノー残業デー」

いまや当たり前?働き方改革で再び見直される「ノー残業デー」

働き方改革

「ノー残業デー」という言葉は、年配の方のほうがむしろ馴染みがあるかもしれません。毎週特定の日を定時退出する日と決めて、残業をせずに帰宅するという運動です。例えば、週の半ばの水曜日を「ノー残業デー」にしている企業もあるでしょう。政府主導で進められている働き方改革の以前から進められていた取り組みでしたので、労働時間を減らす活動の先駆けとも言えそうです。近年再び注目されていますが、その効果と導入のポイントについて考えてみましょう。

調査結果から見た「ノー残業デー」の実態

「ノー残業デー」について2017年の9月に調査会社マクロミルが東京23区の企業に勤める正社員の男女1,000人を対象にアンケート調査をした結果を基に、現在はどのような実施状況にあるのか、そしてその効果はどうなのかについて迫ってみましょう。

「ノー残業デー」の実施率は高い

上述したマクロミルの調査によると、勤務先が何らかの労働時間の削減に取り組んでいるとする回答は66%に達しました。なかでも「ノー残業デーの導入」は労働時間削減を図るための策としては最も多く取られているもので、37.2%でした。

平成22年4月の労働基準法等の改正に伴い、平成23年10月に厚生労働省の受託事業として実施された調査では、対象の運輸業・食料品製造業・宿泊業・飲食業・印刷業で60.3%が「ノー残業デー」を実施していました。

また、日本経済団体連合会では「ワーク・ライフ・バランスの取組み状況」に関する調査を2016年に実施していますが、その結果を見ると、「長時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進」を促すために取られた策として「ノー残業デーの徹底」を挙げたものが67.8%となっています。今後の労働時間短縮を図るひとつの方法として、これまでどおり期待されていることをうかがわせます。

調査結果を見る限り、社員を対象とした調査を見ても、企業を対象とした調査を見ても、「ノー残業デー」の実施率は高く、労働時間削減のひとつの方法として、継続して期待されるようすがうかがえます。

「ノー残業デー」への意識は高まりつつある

企業としては「ノー残業デー」を正式に導入していても、全社員が確実に実施しているとは限りません。しかし、すべての社員が「ノー残業デー」の設定日に定時退社できていなくとも、概ね、業務上のトラブル等がなければ実行されているのではないでしょうか。会社によっては「ノー残業デー」の当日は、オフィスを消灯し、帰宅を促す会社などもあります。

「ノー残業デー」のメリット・デメリット

それでは、ノー残業デーを実施するメリットとデメリットを中心に、もう少し深く考えてみましょう。

メリット

ノー残業デーのメリットとしては、働き方改革のひとつの目標であるワーク・ライフ・バランスの調整機能を持ち、省エネルギーや環境への配慮にもつながります。まとめると次のようになります。

  • 週1回など特定の日で、毎日必ず守らなければならないものではない気軽さがある
  • 定時退社に向けた1週間のスケジューリング等の訓練(仕事のメリハリの大切さを知る)になる
  • 余暇や家族との団らん、交遊などリフレッシュ時間の確保ができ、ワーク・ライフ・バランスの改善のほか、翌日以降の仕事のモチベーション向上にも寄与する
  • 照明、空調、パソコン、コピー機等の消費電力の削減につながる

「ノー残業デー」は、古くからある業務改革でありながら、その効果はなかなか大きいと言えるでしょう。

デメリット

一方、その短所としては次のようなものがあります。

  • クライアントからの緊急の依頼に対して対応が難しくなる
  • 職種や部署で実施について差が生じる場合がある。月末の経理部、管理職や営業職など業績が問われる職種等
  • 名ばかりの実施となり、仕事の持ち帰りなど、見えない残業が増えかえってワーク・ライフ・バランスが悪化する可能性がある

これらは「ノー残業デー」そのものにデメリットがあるというよりも、その実施の準備や環境が整ってないことで発生する、二次的な負の側面と解釈できそうです。

導入のポイント

それでは「ノー残業デー」をうまく運用する方法や、その環境とはどんなものなのでしょうか。「ノー残業デー」の運用上の支障をなくし、実質的な効果を上げる方法について考えてみましょう。

トップダウンが決め手

次に挙げるものは、どれも当たり前のことかもしれません。しかし、いざ実行しようとするとなかなか難しいことも多いでしょう。そういう場合には、経営者自身がまず意識を改革し、経営者からのトップダウンによる改革を進めるのもひとつの方法です。

経営者が効果を認識する

「ノー残業デー」の効果は、ワーク・ライフ・バランスを正常に整え、社員の身体や心の健康を保ち、仕事のモチベーション向上につながることが期待できるものです。経営者こそがその目的や効果を充分に承知し、全社をその方向へ導く意識が大切です。

社員に可能な限りルールを守るという意識を持たせ、環境を用意する

強制的に実施するとかえって忙しい社員の反発心を買うことにもなりかねません。仕事はあるけれど「帰らなければならない」という状況は仕事の持ち帰り、隠れ残業などの原因となり、かえってライフ・ワーク・バランスの悪化につながる恐れもあります。「ノー残業デー」というルールを意識させるのと同時に、それが実施しやすい環境に整えることを経営者は考えなければなりません。無駄な会議や申請書類を削減し、業務時間を有効に使えるようにするのもそのひとつです。

取引先等への周知も大切(クールビズと同様)

夕方に急ぎの見積り依頼が取引先から来てしまえば、その日は定時で帰れなくなってしまうでしょう。かつてのクールビズ導入時のように、取引先等にノー残業デーの取り組みを周知しておくことも必要です。

社員自身もノー残業デーを前向きに捉えられることが理想

「ノー残業デー」で浮いた時間を何に使うか、社員それぞれが前向きに考えられるようになると、きっちりと定時に仕事を終わらせるために仕事を頑張ろうという、仕事への意欲につながります。社員それぞれが「強制的に帰らされる」と感じるのではなく「有意義に使える時間が確保できた」という発想になり、のんびりとひとりで過ごす時間、家族や友人との会食や交遊、自分の勉強や健康のために予定を入れることができるようになって初めてノー残業デーの取り組みが成功したと言えるのだと経営者が意識しておくことが大切です。

導入効果の分析が重要

そしてもうひとつが、前にも触れた環境づくりです。単に労働時間の削減を目指すのではなく、働き方を改革する意味を持たせることです。ただ単純にノー残業デーを導入して満足するのではなく、目指すべき効果が得られたのか、得られていないならどこを改善すべきか、と常にブラッシュアップを続ける姿勢が大切です。

表面的な導入にならないようにするためにもノー残業デーを導入したことでどういう効果が得られたのか、生産性や社員の意欲など、さまざまな観点でデータを集計し、統計的な分析を行い、その効果を確かめる必要があります。思ったような効果が得られていないのであれば、どこに改善の余地があるか探してみることが重要です。

ブラッシュアップを繰り返し、表面的ではなく真の意味での働き方改革の実現をめざしましょう。

働き方改革・高労働生産性の第一歩

ノー残業デーの導入は社員の労働時間を減らすことにつながりますから、経営者や経営層から見ると、売り上げのことが少し心配になるのは、仕方がないことかもしれません。しかし、残業をなくすことで、仕事への意欲を高めることができれば、無駄がなくなり、内容の濃い仕事になる可能性はあります。しかし表面的に導入しただけでは、時間とともに形骸化してしまうでしょう。そこで重要なのは「ノー残業デー」の導入とともに、労働環境の改革を同時に推し進め、中身の伴った働き方改革を実現することです。

現状では「ノー残業デー」は毎週水曜日など週1回の実施が多いようですが、効果が見込めれば、週に2日、3日と増やすことができるかもしれません。うまく導入して、社員にとっても働きやすい会社が実現できれば、離職率の低下、新規の人材確保、企業イメージの向上などの結果を招くことも期待できるでしょう。

参考: