ダイバーシティは社会の多様なニーズに応える企業の必須要件?!

ダイバーシティは社会の多様なニーズに応える企業の必須要件?!

働き方改革

いまダイバーシティに注目が集まっています。ダイバーシティは、企業の成長にとって重要なキーワードになるだけでなく、社会全体の成長にも、個人の働き方にも影響を与える概念です。ダイバーシティとは具体的にどういうことを意味するのか、改めて考えてみると曖昧に理解していることが多いのではないでしょうか。ダイバーシティが企業や社会、個人の働き方にどのように係わっているのが、実践的なダイバーシティを考えてみましょう。

ダイバーシティは何を指している?

ダイバーシティは日本語では「多様性」と訳されます。ひとつの環境のなかにさまざまなものが共存する様を意味する言葉です。そのため、用いる環境によって具体的に指す内容は異なります。たとえば地球環境のダイバーシティと言えば生物の多様性を指します。具体的に言えば、地球にたくさんの種の生き物が同時に生存し、同じ環境を共有しながら生きていることを指します。また、学校におけるダイバーシティと言えば、多様な国籍、あるいは多様な特徴を持った学生がともに学ぶ教育環境が整っている状態を意味することになるでしょう。このように、ダイバーシティは「多様性」を意味しますが、それぞれの場において具体的に示すものが異なります。ダイバーシティを考えるとき、認識しておかなければならないのが、この点です。

企業のダイバーシティという漠然とした概念だけを導入しようとしても、何をどう改革していけばいいのかわからなくなります。まずは具体的にどのような多様性を実現させたいのかを考えておく必要があるのです。

では、ダイバーシティ経営とはどういった意味で使われているのでしょうか。ビジネス分野に絞って考えてみましょう。

意味するところは「多様性」であることに違いはありません。具体的に考えると、企業における組織や人事の分野では、国籍、性別、年齢などそれぞれの個人の特徴や所属に関係なく、さまざまな人材を登用して、多様な働き方を実現させ、そのなかで、それぞれの人材の能力を最大限に発揮できるような環境作りを目指すことが、ダイバーシティ経営の意味するところだといえます。

では、社会の変化にともなって注目を集めてきたダイバーシティについて、具体的に見ていきましょう。

ダイバーシティが注目される背景

ダイバーシティが意識され始めたのは1964年のアメリカです。公民権法(人種、民族、皮膚の色、宗教などを理由にした差別を無くすために1964年に制定された法律)が成立したことで、人種差別の撤廃やマイノリティの人々の雇用などが徹底され、企業や組織、団体に義務づける動きが進みました。80年代に入り、価値観の違いが存在することが価値のあることだ、という認識が生まれました。これがダイバーシティの始まりだとされています。その後、ダイバーシティが企業活動、経営戦略に影響を与えるようになりました。日本においては2000年に旧経団連がダイバーシティ・ワーク・ルール研究会を発足して、ダイバーシティの必要性を提言しました。さらに日本経済団体連合会では「ダイバーシティとは、多様な人材を活かす戦略」として定義され、文部科学省ホームページにおいては「従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」と定義されました。

少子高齢化が深刻になる社会において、人材の確保に対応すべく働き方改革がますます推進され、企業も多様な働き方ができる環境を整えつつあります。テレワークや在宅勤務など、会社に出社しなくても働き続けられるように、ネットワークシステムなどを充実させているのも、そうした対応のひとつです。

また、働く側の人たちも、柔軟にキャリアを継続させ、自らの能力を高める機会を見つけ、積極的にスキルアップに取り組むなど働き続けることへの意識が変わりつつあります。このように企業、個人、社会が働くことへの意識を柔軟にし、さまざまな立場の人がスキルアップを図りながらキャリアを継続させられる環境を整えている現在、企業におけるダイバーシティ経営が注目されるようになりました。

しかし、日本でダイバーシティが意識され始めたときは、男性社会であった企業や組織のメンバーに女性の採用を進めることと同義のように捉えられました。その後、性別だけではなく、年齢、国籍、障がいのあるなし、婚姻の有無、信仰の違いなど、さまざまな属性を持つ人がともに暮らせる社会や企業、組織を作ることへと広がってきました。最近では企業や組織において人材確保を目的するのみならず、人材の能力を最大限活かせる環境作りという視点でもダイバーシティ経営に注目が集まっています。

このように社会的な変化にともなって注目されてきたダイバーシティですが、日本においては現在もなお、ダイバーシティの捉え方が間違っている、あるいは中途半端な理解に留まっているとの指摘があります。どのように間違った捉え方をしているのか、理解を深めるために確認しておきましょう。

視点のダイバーシティが重要

企業や社会が実現しようとすべきなのは「視点のダイバーシティ」です。さまざまな人、たとえば高齢者、女性、障がいのある人などがともに自分の能力を活かして働ける環境を作ることは大切です。しかし、働き方などの多様性を認める動きの根本的なところは、それぞれの人の考え方、視点の多様性を活かすことが企業や社会の成長につながると認識していることです。つまり、大切なのは多様な視点。その多様な視点が活かせる環境を整備するのが企業、あるいは社会におけるダイバーシティの本質だと考えられます。

たとえば、子育てと仕事を両立させている女性を例に考えてみましょう。彼女は朝10時に出勤して、午後3時に退社します。しかし、こうした柔軟な働き方を認める理由が、政府が推進している働き方改革を実現するために奨励されている制度を導入したから、というだけなら意味がありません。また、女性や外国人労働者の受け入れについても、数を合わせるだめだけの対応ならダイバーシティの本質を理解して取り組んでいるとは言えません。根本にあるのは、子育てと仕事を両立させるために時間を区切って仕事をしている彼女の視点や行動が、組織や企業全体が成長するための力になると認識しての受け入れであるべきなのです。つまり彼女は子育てをしている時間においても、スキルを磨き、その培った経験やスキルは業務においても必要不可欠であり、最大限に貢献する可能性を認められていなければならないのです。ただ自由な働き方を政府の意向に添って認めなければならない、という理由からの多様性実現であっては本当の意味で多様性が実現されたとは言えないのです。

どのような生活的条件を持った人であっても、正当に働き手として評価がされ、キャリアを継続し、スキルアップするための道が確保され、他の社員と同等に出世の機会なども認められることが実現されなければならないのです。そのことによって、企業にとっても多様な視点が活かされ、活力となってイノベーションの機会が増え、成長する可能性が高まります。これらが、ダイバーシティが注目される理由であると言えます。

言い換えれば、働く側も、自分自身の視点や可能性を示せなければ、企業内での存在を認められないこともあるということです。そういう環境を作る概念がダイバーシティであると考えられます。

わがままが許される環境とダイバーシティは違う

では、働く社員にとってダイバーシティ経営というのはどういう意味を持っているのでしょう。多様性というと、自分の価値観も他人の価値観も認めることということになりますが、だからといって、自分の価値観を押し通し、好き勝手が許される環境を作ることではありません。たとえば、今の自分は子育てと介護に時間が必要だから、会社への出勤はできないけれど、それは許容してもらえなければおかしい、と考えるのはダイバーシティの意味を曲解していると言えます。

自由度の高い働き方を可能にする環境整備ももちろんダイバーシティ経営するうえでの要件です。しかし、そうした自由度の高い働き方を可能にする目的は、それぞれの社員が最大限に能力を発揮し、企業への貢献度を高め、社員も企業も成長することです。そのために社員ひとり一人の働き方が異なること(多様性)を許容するのです。

自分を見直し、自分の特徴を知ることから始まる

ダイバーシティが注目される以前の企業、たとえば年功序列や終身雇用が当たり前と考えられていた時代においては、ただ問題を起こさずに決められた業務をこなしていれば社員として定年まで勤めることができました。もちろん現在でもそうした環境は一部で存在していますが、ダイバーシティ経営においては、社員ひとり一人の能力を高める働き方を実現させるために、その社員も自分の能力が企業においてどれだけ貢献できるのか、どのような可能性を引き出せるのかを提案し、実践することが必要です。

多様性を認める環境を作るためには、受け容れる環境作りだけでは成り立ちません。つまり、全体のダイバーシティは個(自分)の可能性や特徴を個人個人が把握することから始まると言えます。

ダイバーシティ経営のメリットとデメリット

注目されているダイバーシティ経営ですが、企業内の統一感が薄れるのではという懸念も存在します。では、ダイバーシティ経営のメリットとデメリットで確認しておきましょう。

ダイバーシティのメリット

多様な考え方がイノベーションの可能性を高める

人工知能などの活用が進むにつれ、人が企業や社会に提供する能力として求められるのは創造することです。ダイバーシティ経営が実現された環境で、専門性、スキル、経験など多様な人材が存在するようになると、そのなかで気づきが起こりやすくイノベーションの可能性が高くなります。また、自分にはない能力やスキルを持った人が身近にいると、目標を定めやすく、社員ひとり一人のスキルアップ意欲が高まる可能性もあります。こうした切磋琢磨する環境を作ることは、企業全体の成長を促すことにもなります。

優秀な人材を確保できる

人口減少が社会問題になっている現在、企業においても人材確保が緊急に対応していかなければならない課題です。しかも優秀な人材を確保しておくための工夫は急を要するでしょう。そのために取り組みが進んでいるのが働き方改革です。もちろん、働き方に自由度が高まり、優秀な人材を確保しておける可能性が高まることは企業にとっては有用です。一方、社員にとっても働き方が柔軟になり、子育て、介護など生活環境の変化に対応しながら、自らのスキルを継続的にアップしていける環境が提供されることは、働く意欲につながりますし、その企業への信頼度が高まる要因になります。

顧客の多様化に適応できる

企業が活動する範囲は広く、国内に留まらず世界各国での展開が当たり前の時代です。また、顧客層も多様化しています。ターゲットを絞った商品展開も必要ですが、さまざまなニーズを把握し、商品展開や提供サービスに反映させていくことで、企業活動は充実し、成長することができます。そのためには、顧客の多様性に対応しなくてはなりません。どういうニーズがあるのか、その要求の本質は何なのかを理解し、自社の業務に落とし込み、商品やサービスへと転化していくことが重要です。つまり、顧客の多様化に対応できる適応力が企業に求められていると言えるでしょう。

これらはダイバーシティ経営を実現し、社内に多様な人材、多様な考え方、多様な能力を有してこそ可能になると考えられます。言い換えれば、ダイバーシティ経営がもたらすメリットのひとつが顧客の多様性に適応できる力を持つことなのです。

ダイバーシティのデメリット

ダイバーシティ経営を追及するなかで見落とされがちになり、社内の不満として顕在化する可能性のあるものが、デメリットとして意識しておくべきことです。

価値観が多様であることを認めすぎると、前述したように「自分勝手」「わがまま」と区別が付きにくくなり、不満が生まれる可能性が高くなります。これもデメリットとして意識しておくべきことのひとつです。

また、新しい人材、多様な人材を確保することに注力するあまり、たとえば、外国人労働者が増えると日本人労働者との間に文化の違いや言葉の違いからくるストレスが生じる可能性が高まります。このような状況になると、多様な考え方、多様な文化を取り入れるつもりが、社内にギクシャクした雰囲気を生みだし、社員のモチベーションを下げる結果になりかねません。

同じことは働き方の自由度を高めたときにも起こります。たとえば、育児や家庭の事情により労働時間を変更して勤務にあたっている社員がいる場合、周りの社員はその社員に気を遣いすぎて、突発的に発生した急ぎの仕事を依頼してはいけない空気が生まれるなど、スムーズに業務が遂行できない状況を招くこともあります。また逆に、短時間労働を認めてもらっている社員は、周りの社員に気を遣い、チームに迷惑を掛けているという気持ちが大きくなりすぎると、会議などでも自分の思ったことが言えなくなったり、反対意見が出しにくいと感じたりする可能性があります。

このような状況は、個人の能力を最大限引き出すためのダイバーシティであることの意義がまったく活かされていない状況だと言えます。このような可能性があることも、デメリットのひとつであることを知っておく必要があります。

ダイバーシティ経営を実現させるためのポイント

企業がダイバーシティ経営を進めるとき、重要なポイントは何でしょうか。抽象的な概念として捉えてしまっては何をどうすればダイバーシティが実現できるのかわからなくなります。以下の点を確認しておきましょう。

なぜダイバーシティ経営を進めるのか

ダイバーシティ経営を推進しようと感じたのは、近い将来、あるいは中長期の計画において、どのような経営を実現させたいと思ったからなのかを改めて考えてみましょう。

どういう状況で多様性を求めるのか

逆に、いつも同じ意見しか出てこなくて、新しいことが始められないと思うのはどういう状況のときかを考えてみましょう。たとえば、プロジェクトを立ち上げても、同じ方向の意見しか出てこず、新しい戦力が生まれないと思うなら、プロジェクトメンバーの多様性が必要だと言えます。その場合は、企画関係の部署の見直しなどが考えられるかもしれません。

年齢、性別、人種などによって偏った環境になっていないか

視点のダイバーシティの重要性を説明してきましたが、物理的に偏りのある組織では考え方、視点も偏りがちです。自社の環境を、年齢、性別など物理的な偏りがないか見直すことも大切です。広く、多様な視点や経験、考え方を取り入れ、企業成長につなげるなら性別や年齢、人種においても、偏りがない環境を実現させる工夫が必要です。そのためには、働き方の選択肢を増やすこと、社員同士の価値観を変えていき、多様化する人材を受け容れる企業風土を作っていくことが大切です。

公正な評価ができる体制の整備はあるか

ダイバーシティ経営を進めるうえで、組織の体制が整っていることが重要です。多様な人材を受け容れても、それぞれの人材の人事評価が公正に行われなければ、彼らの能力を活かすことはできません。また、そうした環境が整っていなければ社員のなかに不満だけが溜まっていくことにもなります。

まずは人事評価が公正に行われる体制を整備し、同時に決定プロセスを明らかにしておくことが大切です。

こうした取り組みをしたうえで、社員の能力に応じた部署へ配置する、あるいは本人の希望する働き方が可能かどうかを公正に判断し、キャリア継続の道を示すなどを行うようにしましょう。

また、全社的に教育や研修体制を充実させて、社員それぞれの価値観を認めたうえで、企業理念やビジョンを明確に示し、進むべき方向性がぶれないように、社内で徹底させる工夫も必要です。

ダイバーシティは企業成長の大切なキーワードになる

ダイバーシティと言うと、多くの企業では女性の活躍の場を増やすこと、女性の役職を高めることなどに目がいきがちです。間違いではありませんが、それだけにとらわれていると、企業成長に活かせるダイバーシティ経営の実現は難しくなります。

ダイバーシティ経営というのは、見てきたように、企業を支える能力、人材が多様性を持っていることを意味します。もちろん性別もその要素です。国籍、年齢、宗教などさまざまな属性を持った人材が、それぞれに能力を最大限活かせる環境を、いかに用意するか。そこがダイバーシティ経営の目的であり、ダイバーシティが今後の企業成長のキーワードになると考えられている要因です。

また、企業側が多様性を受け容れる環境だけを用意しても、企業成長をもたらすとは限らないことも確認してきました。大切なのは社員の意識改革です。とくに日本の企業においては、多様性に対する不安感が根強くあることも意識する必要があります。同じような属性を持った社員が、会社のルールに則って、定年を迎えるまで問題を起こさずに勤務することが当たり前であった社会から、自分の可能性や能力を打ち出し、企業成長への貢献度をアピールできることが求められる時代へと変わりつつある今、多様な才能、人材を受け容れ、そうした環境で自らをスキルアップしていくことに意欲的に取り組める社員を育てることも企業にとって大切な業務です。

ダイバーシティ経営を進めるにあたっては、まず自社の現状を知ることから始め、どのような目的においてダイバーシティ経営に取り組むのかを明確にしましょう。

ダイバーシティ経営は短期間に実現できることではありません。継続的に取り組み、環境も意識も並行して進めていくことで企業成長をもたらす企業文化が生まれるのだと考えられます。

ダイバーシティ経営に取り組む企業例

では具体的にダイバーシティ経営に取り組んでいる企業の実例を紹介しましょう。

SOMPOホールディングス

SOMPOホールディングスでは、ダイバーシティが女性活用の面だけを意味するものではないことを認識したうえで、現状の社内環境を見直し、女性や外国人の活躍できる環境作りに積極的に、継続的に取り組んでいます。2013年にはダイバーシティ推進本部を立ち上げ、女性や外国人を含めた社員全員が活躍できる環境を目指すことをトップダウン式に決定。2020年までには女性管理職比率を30%以上にすることを目標に掲げました。

(出典)ダイバーシティ|SOMPOホールディングス

日清食品ホールディングス

日清食品ホールディングスはSOMPOホールディングスとは逆に、社員の活動が社長を動かした事例です。2015年に公募によって集まった社員がダイバーシティ委員会を設立したのは、即席麺市場トップの位置に安心をしていてはいけない、という意識で、顧客飽和状態の国内からグローバル戦略へと舵をきったときでした。会社は経験値の高い女性や外国人などさまざまな人材を積極的に採用していました。

ダイバーシティ委員会のメンバーは自らの要求や「こんなサポートが欲しい」というアイデアをプロジェクト化し、全国の支店や管理職への理解を求める活動へと広げていきました。組織を横断して、委員会メンバーが活動した結果、そして2016年の年頭挨拶で安東宏基社長が「今年はダイバーシティ元年!」と発信するに至りました。その結果、完全フレックス制の働き方が実現しています。

(出典)ダイバーシティの推進|日清食品グループ

目的を明確にすることがダイバーシティ推進のカギになる

企業のダイバーシティ経営を実現する動きは、トップダウン式であれ、社員からの動きであれ、その企業なりの動きがあります。ただ、共通していることは、必要を感じ、継続的な動きによって実現しているということです。注目されているダイバーシティですが、自社でどのような目的のために取り組むのかを考えておくことが成功のカギとなるでしょう。

 

参考: