今注目の「時差出勤」、導入効果と事例をご紹介

働き方改革

生産性の高い働き方をするには、時間管理を厳重にするという方法があります。これは「時間に仕事を合わせる」考え方かもしれません。目標とする時間内に仕事が処理できれば、計画どおり生産性が保てたことになります。その反対に、「仕事に時間を合わせる」というのが「時差出勤」の考え方の基本と言えます。定時後に業務が多くあるコンピュータの保守の仕事ならば、他の社員よりも遅めに出社したほうが効率的にも体力的にも、メリットが大きいと言えるでしょう。「時差出勤」とは何か、どのような効果があるのか、見てみましょう。

「時差出勤」とは

よく耳にする言葉ですが、具体的にはどのような勤務形態になるのでしょうか。

シフトともフレックスとも違う、時差出勤

同じように勤務時間の変更や多様化を認めた勤務形態に、「シフト勤務」と「フレックス勤務」があります。

比較的歴史があるのが「シフト勤務」です。例えば、工場で深夜まで生産ラインを稼働させるときは、昼間の作業員と夜の作業員等に分けて、交替で従事する体制をとります。8時間労働とすると、1日は3つの時間帯に分けられ、最低でも3人の作業員が求められます。工場の他には、ITやシステムの保守を行う部門、24時間体制の病院や、公共向けのサービス業などが該当します。オフィスワーカーではなく、工場やサービス業務の現業で働く人たちのための勤務形態と区分することもできます。

フレックス勤務は主にオフィス業務や営業業務に従事する人のためのものです。会社で規定したコアタイムは、だいたい午前10時や11時開始、午後3時終了の範囲で設定され、その時間帯は勤務義務がありますが、それ以外は労働者の自由裁量に任されるというものです。多くのオフィスワーカーをフレックスの対象にできますが、実際は、企画研究などの専門的な業務や、営業成績が重視される営業パーソンを対象とすることが多くなります。社内のサービス部門とも言える経理や総務は、自由裁量の労働制へ移行できない場合もあります。

時差出勤は、8時間という固定時間は変わらず、シフトほど幅はなく、午前7時から11時頃の範囲で、業務の開始時期が設定できます。そこから8時間後が終業時間となる勤務形態です。フレックスの場合、仮にコアタイムのみの勤務をしたとすると、月の1日当たりの労働時間は8時間に達しません。それに比べ、時差出勤は8時間という枠がしっかり決められているのが特徴です。時差出勤の対象者は、オフィスワーカーが中心ですが、この点でもフレックスに近いと言えるでしょう。

「時差出勤」の導入率は?

東京都が取り組む「通勤ラッシュ回避のため通勤時間をずらす働き方改革のひとつ」の施策として、「時差Biz」があります。都の公表によると、2018年の時差Biz参加表明企業は、833社に上るとされます。急速に導入企業が増えているかどうかの測定値はありませんが、今後、採用を増やしていく会社が増えることが予想されます。

東京都の「時差Biz」サイトでは、導入事例や実施企業・経験社員のアンケート結果を掲示しています。2017年の「時差Biz」の取り組み期間は7月11日から7月25日で、320社が参加しました。その時の評価や感想として、「通勤の快適性、仕事の効率、プライベートの充実」などで、約6割の回答者が効果を実感できたとしています。

時差出勤のメリット・デメリットや導入の準備

それでは、時差出勤のメリット・デメリットや導入時の注意点などについて、もう少し詳しく見てみましょう。

時差出勤のメリット

メリットには、以下のようなものがあります。

残業代の削減

先にも述べた社内のIT部門のスタッフたちは、業務終了後に保守点検の仕事に従事することが多くなります。その人たちが他の社員と同じように9時に出勤すると、夕方5時以降の残業が必須になってしまいます。体力的な負担の他、会社としてはわかりきったうえで残業代を払うことになります。同様に、海外との取引のある部門では、現地との時間差で夜や早朝に重要な仕事が集中することがあります。こちらも、体力的な負担や残業代の無駄が発生することになります。営業職で夜の個人宅訪問などが多くなる職種でも、同様なことが言えます。

時間の有効活用

また、社員側にも、電車の空いている早朝に出勤し、仕事を夕方の早い時間に終了させ、その後を個人の有益な時間にしたいという要望もあるでしょう。資格取得や自己啓発に使われれば、会社にもメリットがあります。また、子育て期間中や親の介護などでも、時差出勤が選択できると助かる場面が少なくないと考えられます。

通勤ラッシュの緩和

そして社会的には、東京都の「時差Biz」にあるように通勤ラッシュの緩和効果が期待できます。東京オリンピック開催時には競技場間を移動する観戦者が増えるため、期間限定でも実施する価値があると考えられます。もちろん、通勤ラッシュがあまりない地方も含め、時差出勤により得られた業務後の時間を遊興等の消費に当てることで、経済効果も期待できるわけです。

時差出勤のデメリット

例えば早朝に出社するようにしても、定時前などに帰宅しづらい雰囲気があったり、取引先からの依頼等で夕方以降の仕事が発生したりしてしまえば、結果的に勤務時間が長くなります。急な社内ミーティングでも同じような結果になるでしょう。社内でも仕事の種類や役職により、時差出勤の利用しやすさや利用メリットに差が生じる場合があります。また、取引先によっては歓迎されない可能性もあります。そして、社会全体に時差出勤が定着することで、通勤の混雑緩和効果よりも、別の時間帯に通勤混雑が分散化してしまう可能性もないとは言い切れません。

実際の導入に当たり

このように、メリットとデメリットを比較すると、デメリットがあまりなさそうな勤務形態であると言えそうです。しかし、企業や業種によりメリットの大きさは異なると考えられ、実際にテスト導入などを行なってから、本格導入に進んでいくのが無難かもしれません。社員の意識改革も含め、本格的な導入の前に効果を分析することが第一です。

また、時差出勤を導入する社内環境整備として、テレワーク導入のためにコミュニケーションを電話やメールからチャットに替えたり、場所や時間の障害を取り除くためにWeb会議システムや、申請書類を電子決裁にしたりするなど、IT環境整備も同時に考えたいものです。業務の効率化を推進するこれらの仕組みは、時差出勤の有無にかかわらず、今後、必要なシステムです。多様性に応じることが重要であると言えるでしょう。

時差出勤導入事例

では実際の導入企業について具体的に見てみましょう。

三井物産(個人単位で導入、競争力強化)

三井物産の時差出勤制度の導入は、2015年の「働き方に関する社員意識調査」から始まった一連の改革・改善活動のなかのひとつです。2016年4月には、年次有給休暇のうちの1日分を1時間単位で取得できる「時間単位の有給休暇」制度を採用、6月には会社のパソコンを外出先や自宅でも使える「モバイルワーク制度」を導入、同年には社員意識調査の2回目を実施しました。そして2017年の6月に「個人単位の時差出勤制度」の導入に至りました。

同社の時差出勤制度は、13パターンの勤務時間帯から選べる仕組みで、1日当たりの所定労働時間はそのままに、基本の勤務時間帯から前後90分の範囲で、個人ごとにずらすことを可能にしています。前年の2016年の6月から8月までの2カ月間に、1,400名の社員を対象に試験導入をした結果から、本格的な制度採用へと進みました。また昼休みは午前11時から午後2時の間に柔軟に取れるようにしています。組織と個人の関係を考え、個人の力が最大限組織に貢献できることを目標に、本制度は導入・運営されています。

(出典)競争力強化に向けた「働き方改革」の取り組みについて~個人単位の時差出勤制度正式導入と両立支援策の拡充~|三井物産株式会社

セブン&アイ・ホールディングス(ワークスタイル改革)

ワークスタイル改革の一環として、同社も2018年3月より「スライドワーク」と称する時差出勤体制を導入しました。共働き世帯の増加、核家族化などの社会の変化を考慮し、フレキシブルな働き方が求められていることを前提にしています。「労働意欲の高揚」、「メリハリのある働き方で効率化や生産性を高める」ことが目的とされています。2018年4月からセブン-イレブン・ジャパンでも開始され、対象となる社員はホールディングスが約500名、セブン-イレブン・ジャパンが約9,000名です。9時から17時30分が基本勤務時間ですが、事前申請をし、出勤日ごとに8時から16時30分の間と10時から18時30分の間で7時間45分の労働時間を設定できます。

(出典)『スライドワークを導入』|株式会社セブン&アイ・ホールディングス

株式会社アスネット(午前8時~10時の出勤を本社で導入)

システム開発のソリューションベンダーである同社は、2001年に設立された若い会社です。時差出勤の試験導入が好結果に終了し、本格的な導入に至りました。普段の業務でも社員の希望や意見などに耳を傾けるようにしており、「半休制度」を導入、その後フレックス勤務の声があがり、時差出勤のテスト運用に進みました。同社の時差出勤の特徴のひとつに、事前申請を不要としたことがあります。そのため、体調不良のときや、家族の都合でその日に定時出社が難しいときなどに使えるので、好評を得ています。

時間意識がしっかり持てることで、無駄な残業などが減ったという見方もされています。心配していたチームワークへの影響も、それぞれが連絡しあうことで協働プロジェクトは問題なく遂行されているとしています。現在は本社勤務者のみが対象ですが、営業社員への新しい制度の考案と導入、在宅勤務を視野に入れた取り組みなども検討中とのことです。なおトライアルでの時差出勤の導入後のアンケート調査では、「仕事への影響はない」との回答が85.7%、「導入に賛成」が92.8%という結果でした。

(出典)平成29年度時差Biz推進賞 ワークスタイル部門受賞 株式会社アスネット|東京都「時差Biz」

目的を明確にし、導入効果を検証することが大事

時差出勤を導入するにあたっては、目標を定め、その効果を探りつつ、テレワークなどの他の制度と合わせて、総合的に生産性を高めることを狙いにすることが大切です。単に全社員の時間を30分遅らせるだけでも混雑緩和等に効果はありますが、生産性を高めるポイントを模索しながら、自社にあった時差通勤のスタイルを確立したいものです。

 

参考: