サテライトオフィスの活用で効率的な仕事環境を実現

サテライトオフィスの活用で効率的な仕事環境を実現

働き方改革

高齢化や少子化の波に飲み込まれている日本社会において、今後、働く人材の確保は企業のみならず、役所といった公共施設においても早急に対処すべき課題です。そうした時代背景を受け、政府は「一億総活躍社会」というキャッチフレーズを掲げ、特に育児や介護で職を離れることの多かった女性の働きやすい環境作りや、高齢者の活用、個別に異なる事情にも柔軟に対応できる働き方制度の見直しといった改革を推進しています。「働き方改革」という表現で、社会全体に浸透してきている「仕事環境の見直し」は、労働生産性の向上と多様性のある働き方を促すことを目的にしています。そうした働き方改革を進めるための環境整備対策のひとつがサテライトオフィスです。とは言え、サテライトオフィスの定義は曖昧です。おおまかに言えば、都心にある会社とは別に、さらに便利な中心地もしくは郊外や地方に設けられたオフィスを指しますが、具体的にはどのようなものなのかご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、サテライトオフィスとはどういったもので、活用するとどんなメリットがあるのかを確認してみましょう。また活用するための注意点や今後、効率的に活用するためのヒントを具体例から探っていきます。

支社とどう違う?サテライトオフィスとは

サテライトオフィスというのは、企業や団体が持つ本拠地(本社など)から離れた場所、たとえば、地方都市や郊外に設置されたオフィスのことを指します。本拠地を中心に見ると、衛星(サテライト)的な存在であることからサテライトオフィスと呼ばれるようになりました。サテライトオフィスは政府が進める働き方改革においても、テレワークの一環として注目されています。

サテライトオフィスには、本拠地で行う業務と同様のことが行えるように通信環境が整備されていることが必要です。支店と同じなのでは? という疑問を持つ人もいらっしゃるかもしれません。まず、支店とサテライトオフィスのおおまかな違いを理解しましょう。

支店というのは、支店のある地域を中心として、ある程度のマーケットを持ち、本拠地と同様の業務を行うもので、拠点ともなる規模と設備を備えています。一方、サテライトオフィスは本拠地と同じ業務は行えるものの、マーケット規模が小さく、しかも必要最低限の機能を持った拠点と考えられています。

次に、支店とサテライトオフィスの違いを明らかにするために、サテライトオフィスのスタイル(役目)を具体的に見ていきましょう。

都市部に設けるサテライトオフィス

利用するのは営業職のスタッフが中心になるオフィスです。本社は都心から離れていても、サテライトオフィスを都心の取引先へのアクセスがより便利なところに設けることで、移動コストや移動時間を削減し、効率的な営業活動を実現することができます。

郊外に設けるサテライトオフィス

ワークライフバランスを実現するための働き方改革を考えるうえで、最も導入する企業が多いのがこのタイプのサテライトオフィスでしょう。通勤問題などを解消するとともに、都心への通勤が困難な人材を効率的に確保するうえでも重要な役割を果たします。

地方に設けるサテライトオフィス

地方創生の役割も担っているのがこのタイプのサテライトオフィスです。地方と言えども、いきなり支店を設けるのはコストやリスクが高いので、サテライトオフィスを設けて、企業活動を充実させていくことを目的にするというケースがあります。

一方、国と地方自治体が一体となって、都心に本社を持つ企業のサテライトオフィスを誘致する動きも活発化しています。多くの企業が地方に進出することで、雇用が生まれる可能性が高まり、地方創生につながることが期待されているからです。このタイプのサテライトオフィス誘致に関連して、さまざまな支援体制を整えている地方自治体もあります。このような情報は各地方自治体のホームページなどで集めることができます。

サテライトオフィスを活用するメリット・デメリット

サテライトオフィスを設けて活用し始める前に、どのようなメリットやデメリットがあるのかを確認することから始めましょう。まず先に挙げた3つのタイプのサテライトオフィスごとに見てみましょう。

都市部に設けるサテライトオフィスのメリット

都市部にサテライトオフィスを設けた場合の主なメリットは、ビジネスチャンスの拡大です。具体的には次のような点でメリットが実感できるでしょう。

  • 時間の効率化:交通手段が充実している都市部にオフィスを設けることで、営業拠点として活用できます。郊外に本社がある場合でも都心部のサテライトオフィスに出勤したり、営業活動の中心をサテライトオフィスに置いたりすることで、移動手段が短縮できる可能性が高まります。
  • 顧客への対応の迅速化:多くの取引先が集中する都心部にサテライトオフィスを置くことで、顧客からの注文や応答に対して、すぐに対応することができます。すばやいレスポンスで取引先との関係を良好に保つことは、業務拡大のチャンスにもつながります。
  • 企業イメージのアップ:経済や物流の中心は都心部にあります。そうしたビジネスの中心地にオフィスを設け、充実した活動を展開していることは、周辺に良いイメージを伝えることにもなり、信頼度、注目度ともに高まる可能性があります。

郊外に設けるサテライトオフィスのメリット

ベットタウンとして開発されている郊外にサテライトオフィスを設けることの大きなメリットは、働きやすい環境の充実です。具体的には以下のことで実感できるでしょう。

  • 通勤・移動時間の削減:都心部にある本社まで通勤するには通勤時間や交通機関の混雑など、さまざまな問題が存在し、通勤するだけで疲れるという社員の声も少なくありません。郊外のベットタウンにサテライトオフィスを設けることで、通勤時間帯の混雑や長時間の移動を解消することができます。
  • ワークライフバランスの実現:居住地域に近い、あるいはオフィスまで移動が楽な環境が整えば、子育てや介護に時間を必要としている社員が仕事と生活を両立しやすくなります。こうした時間の効率的な活用方法が提示されれば、キャリアを継続させたいと考える社員も増え、生産性の向上へとつながる可能性が高まります。

地方に設けるサテライトオフィスのメリット

サテライトオフィスを地方に持つことは、その地方に新たな雇用を生み出し地域活性化につながる可能性を秘めています。そうした地方への貢献が、大きなメリットです。他にも、地方にサテライトオフィスを持つことのメリットを実感できる点を確認していきましょう。

  • 災害時のリスク分散:企業活動を本社のある都心に集中させておくことは、連絡、移動などを考えれば効率的だと言えます。しかし、災害が発生した場合など同じ地域に業務拠点が集中している場合はライフラインが被災すると業務のすべてがストップすることになります。一方、サテライトオフィスを都心から離れた地方に設けていると、業務の継続が見込めます。こうした災害時などのリスク分散を考慮することで、業務を継続、あるいはすばやく復旧することが可能になります。
  • 地方の活性化に貢献:地方にサテライトオフィスを設ける大きなメリットが地方の活性化に貢献できることです。また、地域との連携をすることで業務拡大やイノベーションの可能性を高めることもできます。
  • 多様な人材確保の可能性拡大:人材確保が厳しくなる今後、地方に住む人々を積極的に雇用することが可能になります。
  • 優れた住環境での働き方を実現:育児世代の社員にとって子育て環境の充実は大きな課題です。便利な都心も良いけれど、自然豊かで優れた住環境が望める地方で子育てをすることを願う社員にとって、地方にサテライトオフィスがあることは、キャリアを継続しながら、住環境の選択肢が広がることになります。

都市型、郊外型、地方型に共通なシェア型or自社単独のサテライトオフィスのメリット

もうひとつサテライトオフィスのタイプとしてシェア型を考える場合があります。都市型、郊外型、地方型のサテライトオフィスを設けるときに自社単独でオフィスを用意するのか、あるいはシェアスペース内にオフィスを構えるのか迷うところです。それぞれのメリットを見ておきましょう。

  • シェア型:オフィスを構えるための費用が抑えられます。あらかじめ通信設備やコピー機などの事務機器が共有できるようになっている場所もあります。また、異業種の人と出会う機会が増え、新しい発想や視点の転換などイノベーションの可能性が高まる環境で仕事をすることができます。
  • 自社単独型:自社のオフィスなので、他企業の人に気を遣う必要がありません。また秘密漏洩の危険性も少ないでしょう。

サテライトオフィスのデメリット

次にデメリットを確認しておきましょう。サテライトオフィスの状況にもよりますが、大きく分けて3つのデメリットを意識しておく必要があります。

  • セキュリティ:シェアオフィスを利用してサテライトオフィスを設置した場合、異業種や同業他社とのコミュニケーションが取れて、新しい視点や発想を得やすいという利点がある反面、セキュリティ意識を常に持っていなければ、情報の漏洩の危険性が高くなります。たとえば、パソコンをつけたまま席を離れるなど、ほんの少しの時間だからとの油断が、画面を覗かれて情報が漏れるなどの可能性はあります。さらに使用しているパソコンやスマートフォンなどの端末の盗難などにも注意が必要です。
  • 本拠地(本社など)とのコミュニケーション:コミュニケーションツールを導入し、環境を整えているとは言え、対面して同僚や上司と話をするのとは異なり、十分な説明がなされていない、雰囲気が伝わらないなどの問題が発生する可能性はあります。丁寧な説明、密な連絡を心がけ、分かったつもりになって質問を省略する、伝わっているだろうと思い込み追加説明を怠るといった、伝達ミスや齟齬が起こらないように注意が必要です。
  • 自己管理・スケジュール管理:会社に勤務していたときは就業時間などを意識しなくても問題はありませんが、サテライトオフィスで仕事をする場合は、在宅勤務やテレワークと同様にスケジュール管理を含め、担当業務が予定どおりに進むように自己管理をする必要があります。またプロジェクトの一員として仕事をする場合、業務の進捗状況を細かくメンバーに伝えること、メンバーの状況を把握しておくことを意識しておかないと、作業が重複する、または作業が抜けてしまう、といったミスが起こる可能性があります。

サテライトオフィス導入で解決できる問題点

働き方改革としてテレワークや在宅勤務を積極的に採り入れてきた企業において、新たな課題が見えてきています。サテライトオフィスを導入することで、積極的に進めてきたテレワークや在宅勤務で生じた課題は解決できるのでしょうか。この点を考える前にテレワークや在宅勤務で問題視されていた点を確認しておきましょう。

テレワークや在宅勤務における問題点

テレワークや在宅勤務の導入は、子育てや介護などで時間を制約される社員がキャリアを継続させることができる、あるいは遠隔地での就職などを可能にする手段として、多くの企業が積極的に進めてきました。しかし導入にあたっては、以下に示すようないくつかの問題点が挙げられています。

  • 生産性やコミュニケーションの低下:ネットワークシステムを充実させ、コミュニケーションツールは十分に使える環境にあるとは言え、顔を見ての連絡や打ち合わせでないだけに、分かっているだろうとか、こういうことだろうといった思い込みによる情報不足が次の作業の遅延やトラブルのもとになるケースが少なくありません。こうした情報共有の不十分な状態は、生産性の低下やモチベーションの低下を招く可能性もあります。
  • 勤務状況の把握がしにくい点:同じオフィス内で仕事をしているわけではないため、仕事をしている様子が把握しにくい状況が生まれます。一定の時間をオフィス内での勤務に費やすことで評価されるわけではないので、成果などをどのように評価するかなど、新たな評価方法で公正に評価する必要がでてきます。
  • 社員にとっての気兼ねと評価が下がるのではないかという不安:テレワークや在宅勤務に対する意識はずいぶんと広まったとは言え、実際に在宅勤務を利用している社員からは、出勤している社員への気兼ねがあるとの声も聞かれます。また、会社側が勤務状況を把握しにくいのと同様、社員にとっても正当な評価がしてもらえるのか不安に感じることも多いようです。現状の評価方法では対応しきれない点があるため、さらに意識改革を進めると同時に、新たな評価方法を導入し、全社員に示す必要があります。

サテライトオフィス設置で問題解決の可能性を高める

これらの問題点の解決につながるのがサテライトオフィスの導入です。まず、時間や場所にしばられない柔軟な働き方として進められているテレワークですが、サテライトオフィスを設けることで、そうした働き方ができる環境が整うことになります。また、本社への出勤は時間や距離的に難しくても、住居地の近くにサテライトオフィスがあれば、必要に応じてサテライトオフィスへ出勤し、顔を合わせての打ち合わせをする機会を増やすこともできます。さらに、サテライトオフィスで働く社員が増えてくれば、会社全体の働き方への考え方も柔軟になり、多様な考え方、価値観を受け入れ、正しく評価する企業文化が醸成されるようになります。

サテライトオフィスの導入は、テレワークや在宅勤務を導入して、働き方改革を推進するうえでの大きな一歩になると考えられます。

サテライトオフィス活用事例

では、実際にサテライトオフィスを設けて業務の効率化を図っている企業の例を参考に見てみましょう。

高島屋

大手百貨店の高島屋は都内を中心に名古屋、大阪をはじめ、各地に20箇所のサテライトオフィスを設けています。目的は場所にとらわれない働き方ができる環境を実現することと、職住近接を実現することです。さらにサテライトオフィスを地方に設けることは、地域での雇用を増やし、地域活性化に貢献することも目的でした。その背景には、育児や介護に携わる従業員の増加を考え、キャリア継続を望む従業員が働きやすい環境を整えこと、また人材の確保が難しくなりつつある時代への対応の必要性がありました。

サテライトオフィスを全国各地に20か所も設けたことで、全国各地に商品を買い付けるために出かけているバイヤーや従業員が出張先や取引先に近いサテライトオフィスで業務をおこない、労働時間の短縮につなげています。

(出典)高島屋が働き方改革強化 在宅勤務を本格導入 サテライトオフィス20カ所設置も│産経ニュース

徳島県

企業のサテライトオフィスを積極的に誘致しているのが徳島県です。サテライトオフィスを設置しようとすると、どうしても本社との情報交換のためにITインフラ設備は不可欠です。徳島県は全域に光ファイバーを導入して、全国でもトップクラスのブロードバンド環境を整えました。また、徳島県内に点在する空き家を積極的に企業に貸し出すことで、空き家の有効活用とサテライトオフィス誘致を結びつけました。

その徳島県のなかで、話題を集めている地域のひとつが神山町です。徳島県の東部にある山間の町に、2015年の段階で12の企業がサテライトオフィスを設けました。神山町の特徴のひとつが逆指名制度です。どの企業にでも来てもらえれば良い

というのではなく、地域や住民への急激な影響を避けるために、また提供できる空き家数を考え、将来的な神山町の姿を予想しながら誘致を進めてきました。

サテライトオフィスを開設した企業や働くために移住してきた人にとってのビジネスコミュニティの場としてコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」を設けるなど環境整備にも積極的に取り組んでいます。

(出典)活況呈する徳島県のサテライトオフィス~課題と可能性~│公益財団法人 徳島経済研究所(PDF)

株式会社アラタナ

宮崎県に本社を置く株式会社アラタナはECサイト構築やWEBマーケティングに係わるすべての領域でサービスを展開している会社です。ベンチャー企業として2007年に設立されました。株式会社アラタナは東京の表参道にサテライトオフィスを設けています。そして東京と宮崎の二地域で採用をするなど、人材確保と社内の活性化につなげています。

ただし、アラタナが東京にサテライトオフィスを設けたのは、一般的に考えられるように、顧客の多くが東京に拠点を置く企業であり、その顧客への対応を充実させるため、という理由ではありません。顧客への対応は宮崎を拠点としたままの対応でも、不便はありませんでした。しかし、東京にサテライトオフィスを設け、従業員が都会と地方を行き来する機会ができることで、双方向からの刺激を受け、社内環境の活性化につながりました。さらに、顧客にニーズを客観的に捉えようとする外向きの志向が増え、イノベーションの可能性が高められました。アラタナにとってサテライトオフィスの設置は、成長できる職場環境を整えるために大きな役割を果たしています。

(出典)株式会社アラタナ in 宮崎県 「宮崎⇔東京」の二地域就業による社員の行き来が社内に刺激をもたらした│総務省

サテライトオフィスを効果的に活用するために

サテライトオフィスを効果的に活用するためにはどのような準備と注意が必要でしょうか。いくつかのポイントを確認していきましょう。

企業文化:コミュニケーション

IBMは1990年代からテレワークを導入し、さまざまな取り組みを実施してきました。しかし、2017年に廃止しています。理由はコミュニケーションの不足による業務内容の低下が原因とされています。つまり、サテライトオフィスにおいても、本拠地(本社)とのコミュニケーションが十分に取れる環境を整えるのみならず、社員同士がコミュニケーションを取る習慣を身につけていることが前提であると考えられます。

距離が離れている分、言葉足らずの説明や簡潔すぎる情報では、伝えた側と受けた側の理解が同じでない可能性があります。共有する情報は分かりやすく、明確に、誤解のない説明がなされている必要があるのです。こうした企業文化を育むこともサテライトオフィスを効果的に活用するために必要な要素であると言えるでしょう。

設置場所:「都心型」「郊外型」「地方型」の設置効果を理解する

サテライトオフィスのタイプとして「都心型」「郊外型」「地方型」の3つを挙げました。設置場所もその3つに大別されますが、どのタイプが相応しいかはサテライトオフィスを開設する目的によります。

自社が何のためにサテライトオフィスを開設するのかを明確にして、どこに設けるのが最も生産性の向上や働き方の自由度を高めることになるのかを検討しましょう。

セキュリティの担保

サテライトオフィスにおいて、特にシェア型のオフィスを設ける場合、セキュリティの問題は重要な課題です。ノートパソコンなどの端末の取り扱いや保存に関するセキュリティ意識を徹底させるとともに、ウイルスなどの脅威への対策を万全にしておきましょう。

自社に適したサテライトオフィススタイルを検討して仕事環境の充実をめざそう

こうした注意点を抑えながら、自社に適した場所にサテライトオフィスを開設することで、働き方の自由度が拡大され、将来的に優秀な人材が確保できる可能性が高まります。

まずはどのようなサテライトオフィスの開設が適切なのかを判断することから始めてみましょう。同時に、コミュニケーションの充実を図り、そうした多様な働き方を受け容れ、積極的に活用しようとする社内文化の育成にも取り組むことが重要です。競争力のアップや人材確保が将来的な企業発展のカギになる時代です。サテライトオフィスを上手く活用して、企業力を高めるチャンスにしましょう。

 

参考: