残業は減らせるか?働き方改革から見直してみる

残業は減らせるか?働き方改革から見直してみる

働き方改革

2016年に起きた大手広告代理店社員の過労自殺事件により、大きな話題となった「働き方改革」。社員の負担が積み重なる過度な残業は、雇う側にとっても雇われる側にとってもなくしたいものです。国を挙げての取り組みが行われるなか、残業の実態はどうなのか、どうすれば残業を減らせるのか、などについて解説します。

働き方改革の概要

少子高齢化による人手不足など、日本が直面する多くの課題の解決に向け、安倍総理大臣が議長となり、担当大臣など関係閣僚と有識者が集まった「働き方改革実現会議」が2016年9月から10回にわたり実施されました。「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」など、9つの分野について議論されています。その第10回(2017年3月28日)において、「働き方改革実行計画」が決定し、課題解決の実現に向けたロードマップが示されています。
ロードマップでは、9つの分野ごとの「働く人の視点に立った課題」にはじまり、諸々の法制度やガイドラインの整備、支援策の充実・活用促進などの対応策が示されました。

働き方改革が進められている背景のひとつには、日本の長時間労働の実態があります。「KAROSHI(過労死)」という言葉が世界で知られるようになったほど、日本における労働時間の長さは深刻です。
例えば、週に49時間以上働く長時間労働者の割合は、日本では21.3%(2014年時点)です。これに対し、欧米諸国を見るとアメリカは16.6%、イギリスは、12.5%、ドイツは10.1%、フランスは10.4%と大きく差があり、国連やILO(国際労働機関)から勧告も受けています。
(出典)データブック国際労働比較|2016独立行政法人 労働政策研究・研修機構(PDF)

今後、働き方改革に関する動向はさらに高まると予測されます。政府は「働き方改革実行計画」に基づいて、労働基準法の改正を検討しています。法が改正されれば、労使協定などにより事実上無制限と言われていた残業時間の上限が規制されることになります。

残業時間の上限

残業の上限について、改めて見直してみましょう。

働き方改革法案要綱

「働き方改革実行計画」では、長時間労働の是正について「罰則付きの時間外労働の限度を具体的に定める法改正が不可欠」とし、残業の限度を「原則として、月45時間、かつ、年360時間」としました。労使協定を結ぶ場合は「年720時間」、月平均では「2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内」「単月では、休日労働を含んで100時間未満」とし、罰則も設けるとしています。
また、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保する「勤務間インターバル制度」を導入し努力義務を課すことも定めています。
(出典)働き方実行計画概要(PDF)

その後2017年9月8日、厚生省は労働政策審議会分科会で、上記の内容を含んだ「働き方改革法案要綱」を提示しました。

知っておくべき36(サブロク)協定

前述のように、設定された残業時間の上限は、労使協定を結んだ場合にはそれを超えることが可能になります。この労使協定を「36協定」と言い、労働者の過半数で組織される労働組合と雇用する側の間で締結します。

働き方改革法案要鋼では、36協定が結ばれた場合の残業の上限は、複数月の平均で月80時間、単月では100時間とされていますが、この時間は過度な業務により心身に疾患が起きるリスクが高まる限界の時間と言われています。厚生労働省の「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」では、残業時間と疾患の関連性について「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」と明記されています。
(出典)脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について|厚生労働省(PDF)

残業の実態

残業時間の是正が叫ばれる中、その実態はどうでしょうか。
日本労働組合総連合会は、時間外労働の実態や36協定の締結・認知状況を把握するため、2017年6月に「36協定に関する調査2017」を実施し、全国の20歳~65歳で働く人1,000名の有効回答を集めました。

そのうち、時間外労働の実態に関して以下の結果が示されました。

  • 「残業を命じられることがある」6割強、20代男性では8割に
  • 1ヶ月の残業時間は平均22.5時間、最も平均時間が長いのは運輸業で33.6時間
  • 残業を減らすための取り組み「何も行われていない」が4割半ば、サービス業では6割に
  • 「出勤日でない日に出勤することがある」3割、教育・学習支援業では5割強

また、36協定の締結・認知状況では以下の結果が見られました。

  • 「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
  • 勤め先が36協定を「締結している」4割半ば、「締結していない」2割弱、「締結しているかどうかわからない」4割弱

加えて、働き方・労働時間に対する考えでは、以下の回答が出されました。

  • 心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間は平均46.2時間

いずれにしても、残業の実態や36協定の認知度は、未だ低いようです。
(出典)36協定に関する調査2017|日本労働組合総連合会(PDF)

働き方改革で残業を削減するには

このように働き方改革の取り組みが進められる一方で、現場である企業や従業員にまでなかなか及びきれていないという現状が見られます。
そのような状況で働き方改革にのっとり残業を減らしていくには、やはり組織や個人が何かしら変わらなければならないでしょう。そのポイントを、以下の3つにまとめました。

  1. 意識を変える:経営者・社員ともに、まずは国と自社の基準をしっかり理解することが大切です。国や会社任せにせずに、残業時間の上限や36協定の有無など、自社の労働基準をしっかり確認し、自らが働き方を変えていくという意識を持つことから始めましょう。
  2. 制度を変える:改革をするには、やはり制度の見直しや変更は必要となります。具体的には「ノー残業デー」や「朝方勤務」の導入、評価制度の変更、多様な働き方を実現するなどが考えられます。厚生労働省による「労働時間等見直しガイドライン」には、詳細な対応策が明記されています。

(参照)労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)/厚生労働省

  1. テクノロジーを導入する:ITツールの導入など“道具”を変えて業務の効率化を図ることも1つの方法です。最近では、データ入力や照合、集計、転記作業などをマニュアル化できるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で業務を自動化させることが可能です。またグループウェアで「業務の見える化」をし、仕事をほかの社員に振り分けるなど仕事量のバランスをとる、遠隔からでもITを通じて業務を行えるテレワークを導入するなど、テクノロジーを積極的に取り入れることも一考の価値があるでしょう。

働き方改革についての議論は今後も高まる見通しです。労使ともに労働基準を知り、内容を理解したうえで、成果をあげていきたいものです。

 

参考: